『ハーモニー』<harmony/>は2008年に単行本として刊行された伊藤計劃の第二長編SF小説。
その一年半前に『虐殺器官』で小説家デビュー。
本作はその『虐殺器官』の続編のような展開を見せている。
『SFが読みたい!2010年版』で第1位。第40回星雲賞日本長編部門および第30回日本SF大賞受賞作品。
しかし、これらの賞を作者が直接受け取ることは無く、闘病生活の末に亡くなられた。
2007年にデビューして僅か2年で若くして亡くなった夭折の天才作家として知られる。
あらすじ
21世紀後半、〈大災禍〉と呼ばれる世界的な混乱を経て、人類は大規模な福利厚生社会を築き上げた。医療分子の発達で病気がほぼ無くなり、誰もが互いのことを気遣い、親密に”しなければならない”ユートピア。その優しさと倫理が真綿で首を絞めるかのような世界に3人の少女は餓死することを選択した・・・。
それから13年後、自殺に失敗した少女は世界を襲う大混乱の陰に、唯一死んだはずの友人の影をみる。
これは人類の最終局面、ユートピアの臨界点に立たされた人間の物語。
ハーモニーの当事者が主観で書き記した小説?
この小説は架空の言語である【Emotion-in-Text Markup Language:version=1.2】略称etml1.2を使って書かれている小説である。
ハーモニーを未読の方はなんのこと?と思うだろうがこのetml1.2という言語によって小説内に感情や言葉の意味等を所々に補足してある。
僕は何の知識もないままにこの小説を読んだのでこういう手法で書くのかくらいにしか思っていなかった。
しかし、最後まで読むとどうやらこの小説で起きた出来事をその当事者がetml1.2を使用して記述したという設定らしい。
何故、etml1.2を使用する必要があるのかについてはネタバレとなるので省略。
僕は特に英語が得意ではなかったのでその都度調べながら読み進めていたのですが伊藤計劃の小説は〔英語・カタカナ〕が多い・・・。
スマホ片手に読むことを推奨します笑
感想。以下ネタバレあり。
時系列的にみると『虐殺器官』の方を先に読むべきでしたが個人的には『ハーモニー』のあらすじにすごく興味が湧きあまり迷うこともなく『ハーモニー』から読みました。
どうやらこの2つの作品は繋がってはいるようですがストーリーには直接的に関係しているわけでもなくどちらから読んでも大丈夫なようです。
物語は〈大災禍〉という第三次世界大戦的な核戦争からの教訓で人類が健康第一という思考となった。
医療も大幅に進化して医療分子というナノレベルの人工物Watch Meを血液に入れることで常に体内を監視することが可能となり、病気や生活習慣病といったものがほとんど無くなった世界。
そしてこの世界における大人になるということはWatch Meを体内に入れ生府の合意員となり生府のサーバーとオンラインになって繋がるということ。
生府とは
❝大災禍の後に生まれた医療合意共同体。医療サーバーを介して市民へ医薬品を提供したり生府参加員達のセッションを行う場として働いている。国籍や地理的な制限が無く1つの生府に世界中の人間が参加しており、逆に同じ国籍でも所属する生府が違うことが多い。一方で旧来の政府は縮小しており、治安維持など統治機構としての最低限の役割を担っている。❝ Wikipedia参照
一見、健康に生活できる平和な世界のように見られるが過剰な程の健康思考により酒やたばこといった嗜好品は禁止されているし食事にしても全てが管理されていて少しでも健康に悪いことをすれば体内のWatch Meが異常と捉えるため隠れて嗜好品を嗜むことはほとんど不可能な世界。
Watch Me を入れた人間は生府によって管理されているため全てが健康的な標準体型。
過剰な善意により管理された世界の価値観
この世界の価値観は善意に満ちている。
我らの世代は、お互いが慈しみ、支え合い、ハーモニーを奏でるのがオトナだと教えられて育ってきたから。 本書p21参照
他人に優しくするように、お互いが気遣いあって生活する社会。
もちろん、現代社会にも気遣いはあるし大事なことだと教えられているだろうけどもこの社会ではそれの価値観というか感覚が異なる。
人の命は公共的身体であり、それに対する攻撃等は許されることはない。
なのでいじめなんて存在しない。それくらいに人の命が徹底的に管理されており、世界の空気は優しさという善意に溢れかえっている。
優しさに息詰まる世界に徒名す日を夢見る狂犬
〈declaration:anger〉
〈「わたしたちはどん底を知らない。どん底を知らずに生きて行けるよう、すべてがお膳立てされている」〉
〈/declaration〉
ミァハの口癖だった。p15参照
この物語にでてくるキーパーソンであるミァハの言葉。
ミァハは読書家で物知りであるが故に世界を斜に構えてみているのかとも思ったが実はミァハは壮絶な過去、闇を抱えておりそれを知るとこの言葉の重みが分かる。
そしてミァハという少女はこの世界に息詰まり2人の友人と共に自殺を図る。
しかし、友人二人は自殺未遂で終わり、死んだのはミァハのみ・・・。
それから物語は大人になったところまで進みWatch Me を悪用され脳の意識を司る分野に直接何かをすることで自殺を強制させてしまうという末恐ろしいテロが起こる。
意識とは何か?
現代の脳科学がどこまで進歩しているのか良く分からないがここでは意識というか意思というものについて会議のようなものと例えている。
人間の意思というものはひとつではなく多種多様な欲求が脳の中で主張し合って調整し決断、結論を出す。そしてその欲求というものは人間にとって双極的な価値判断を有している。
双極的な価値とは簡単にグラフにすると
こんな感じで価値というのが目先のもの程大きく見えることである。
せっかちな人は特にこの傾向があり我慢強いとされている人はやや緩やかな曲線を描く。ちなみに動物何かも本能で動いているように見えるが双極的な価値判断を有しておりその中で意思を決定している。
このような双極的な価値は非合理的な意思決定をしてしまうことに繋がる。
今、やったほうが良いと感じていることと今、やりたいことが一致しないのが人間かなと思う。
そしてこの双極的な価値判断を利用して欲求のベクトルを自殺することに向けることで
強制的な自殺を引き起こすというメカニズムとなっている。
この無差別な虐殺は大災禍が起こってから人類が密かに作り出した最終予防線的なシステムを発動させることが目的となっている。
そのシステムは『ハーモニー・プログラム』と呼ばれ双極的な価値判断を完璧である指数的な価値判断に強制的にさせてしまう。
それは会議でいうと全ての意見が一致するため会議の必要が無くなる。
つまり意識が消滅してしまうことになる。
グラフにするとこんな感じ。
結局、『ハーモニー・プログラム』は発動されて世界はユートピア?になったわけだけども全ての人が意識がなく、ただひたすらに合理的な行動をとり続ける世界。
想像すると、すごく不気味だと思いませんか。
そんな世界に生きる意味なんてあるのかすら疑問になります。
でも平和であることは間違いなく、それがかえってすごく気味が悪いと思いました。
人生が何も変わったことが無く、普通に過ぎていくだけだとしたらすごく退屈に感じそうです。
もちろんそんな感情はユートピアにはないと思いますが。
嫌なことはもちろん進んで経験したくはないです。
でも芸能人なんかはよく波乱万丈の人生送ってるのをTVで観ますがすごく生き生きとしていてむしろ楽しそうですよね。
本作ではミァハ達少女が優しさに窒息していますが現代社会にも似たようなことがあるよなぁと感じました。
架空の話ですがまるっきり他人事ではないなと思います。
昨今の医療技術もすごく進歩してますし最近なんかは通信業界で5Gが実装されるみたいですね。
5Gが実装されれば革命が起きると言われているようです。
スーパーテクノロジーが現実になる社会がもうすぐそこまで来ているって思うと楽しみです。スーパーテクノロジーによる背反とかはあるんでしょうか。
4Gが普及して今や当たり前となったSNS時代ですが5Gが普及したらまた新しい何かが生まれるんでしょうか。
すみません、話が脱線しました。
僕が言いたかったのは進んだ医療技術や医療体制、健康食品により、健康に対する意識っていうのが徐々に高まっていると思います。
ひと昔前ならサプリとかもそんなに無かったと思うんですが今だとコンビニですらサプリ、健康食品が陳列され飲料水にしてもトクホの商品がたくさんあり皆、健康に気を使いだしている社会になっていますよね。
優しさの空気みたいなものだってSNSの普及、YouTuberによる情報発信等により芸能界で少しでも倫理観に欠けるような発言、行動があろうものなら総パッシングされる時代です。
パッシングを恐れ当たり障りのないことしか言えなくなってしまえばそれはハーモニーにおける世界観と類似してしまうのではないだろうかと思いました。
最後に・・・
ハーモニーの極端な世界観を見ることで人としての生き方について考えさせられるなぁと思いました。それにしても発想がすごい。
『虐殺器官』は絶賛、読んでます。
SF読んでて思ったことがあるんですが色々な知識を知れるという面白さもあるなと糖尿病って氷河期時代に獲得した遺伝子の進化の過程なんだって笑
余談ですが。
令和始まりましたね。
平成最後の日、皆さんは何してましたか。僕は読書です( ´∀` )
↓ちなみに映画もあります。