こんにちは。
今回はケリー・マクゴニガルの『スタンフォードの自分を変える教室』という本について紹介したいと思います。
あなたには、やるべき事をやらずにスマホを見たり、我慢していた甘いお菓子の誘惑に負けたり、物事を先延ばしにしたりといった経験はありませんか?
様々なコンテンツが溢れている現代社会では、多様なライフスタイルを選ぶことができます。
それ自体は素晴らしいことだと思いますが、人は選択肢が増えるほど考えなくなる生き物です。つまり、できないのは気持ちの問題ではなく、人間の脳の構造がそうなっているわけなのです。
本書ではスタンフォード大学の健康心理学者であるケリー・マクゴニガル先生から意思力についての実践的な戦略、知識を学ぶことができます。
・やる気が出なくて悩んでいる人
・物事を先延ばしにする癖を直したい人
・誘惑や依存症に苦しんでいる人
・自分を変えたい人
著者・ケリー・マクゴニガルの紹介
1977年10月21日生まれ。スタンフォード大学で博士号を取得した健康心理学者。
心理学、神経科学、医学の最新の知見を用いて、人々の健康や幸福、成功、人間関係の向上に役立つ実践的な戦略を提供する「サイエンス・ヘルプ」のリーダーとして、世界的に注目を集める。
意思力やストレスに関係する書籍を多数出版。
『スタンフォードの自分を変える教室』の概要
本書は「意思力における科学的見解」と「実践的なエクササイズ」を融合したもので、意思力の問題を解決するためにどうすればいいのかを教えてくれます。
意思力の問題
「やるべきことが分かっているのに先延ばしにしてしまうのはなぜか」
「目の前の誘惑に打ち勝てないのはなぜか」
「どうすれば目標(ダイエットなど)を達成できるのか」
以上のような意思力の問題は誰しもが経験をしたことがあるのではないでしょうか?
意思力の問題が起きる原因は、意思力が弱いからではありません。
本書では、このような意思力の問題を解決するために2種類の課題が用意されています。
各章で説明するポイントに対して、あなた自身が当てはまることを考える。(自己認識)
②意思力の実験
各章での科学的な研究や理論に基づいて自己コントロールを強化するための実践的な戦略
※全部で10章あります。
出世・勉強・寿命も意思力が決める?
意思力は大きく3つに分けられるといわれてます。
自分にためにすること、やるべきことを先延ばしせずにやる力
②やらない力
お菓子やタバコ、浮気などの誘惑に打ち勝ってやらない力
③望む力
重要で長期的な目標があり、モチベーションを維持できる力
このような意志力は誰にでも身についているものですが、我慢強い人や衝動的なひとがいるように意志力には個人差があります。
意志力が強い人は、注意力、感情、行動をうまくコントロールできる為、以下のように様々な点で優れています。
・テストで良い点が取る為には知力よりも意思力
・リーダーシップが発揮できるかもカリスマ性よりも意思力
・結婚が上手くいくかどうかも思いやりよりも意思力
またストレスや争いごとを上手く乗り切ることができるため、逆境に強く、寿命も長くなります。
意思力の問題は2つの自己のせめぎ合い
やる力、やらない力、望む力は脳の前頭前皮質の働きによってコントロールされています。
しかし、これらの意思力は必ずしもコントロールできるものではありません。
意思力がコントロールできない理由とは?
この理由は人類の進化の仕方に影響しています。
太古の人類にとって食糧の問題はそのまま死活問題へと繋がります。そのため、甘いものを見つけたら我慢せず食べることで、生き延びる確率を上げていたのです。
現代ではどうでしょうか?食料は溢れていて、餓死することはよっぽどありませんよね。
むしろ食べ過ぎによる肥満のほうが健康上のリスクを高め、長い人生を生きるには不利となってしまいます。
しかし、太古の人類の本能が今でも備わっている為、本能で甘いものを欲してしまうのです。
人間の脳の中では、2つの意思力がせめぎ合っている
脳は、目先の欲求を満たそうとする衝動的な自己と、欲求を抑えて長期的な目標に従う理性的な自己が常に対立しています。
意思力がコントロールを失う時は、この2つの自己が対立して衝動的な自己が理性的な自己をねじ伏せることで起こります。
これだけ聞くと衝動的な自己を悪と感じてしまうかもしれませんが、必ずしも悪い物ではありません。
医学的研究によると、脳への損傷により本能(衝動的な自己)を失うと原始的な恐れや欲望、自己コントロールに大きく影響を与えることがわかっています。
「モテたい!」という欲求が強く元気な人でも、ある日、事故か何かで性欲という本能がなくなってしまうと、生きる活力も失われてしまい元気じゃなくなってしまいます。
あるいは、恐怖心が全くない人では、危険なものに対してあまりに無防備で命を危険にさらすリスクが高まります。
自己コントロールの第一歩
優れた自己コントロールをするためには自己認識をすることが有効です。
自己認識とは?
自分のしていることを認識するとともに、それを行う理由を理解する能力。
Wikipediaでは以下のように解説してあります。割と難しい概念です…。
Wikipediaより
自己認識(じこにんしき, Self-awareness)とは、内観能力のひとつであり、自分を環境や他の個人とは別の個人であると認識する能力である[1]。自分が存在すると言う理解である。さらに、それは、他の人々が同様に自己認識するという理解を含んでも良い。
「選択した瞬間」を振り返ると自己認識できる。
自己認識をする方法
例えば、ジムをさぼった時に「なぜさぼったのか?」を具体的に考えると、自分の意思力は何に影響を受けるのか認識できます。
また、ジムに行けた日は行けなかった日と何が違ったのか考えるといいでしょう。
選択した瞬間を振り返ることで自分の意思力の基準というものを分析することができ、何となく行動するということが減り意思力は高まります。
意思力は筋肉と同じで鍛えることができる
意思力には生まれつき強い人がいるということはわかりました。では意思力の弱い人はその現実を受け入れるしかないのだろうかというとそれも違います。
意思力、すなわち自制心というものは鍛えることが出来ます。
自己コントロールの面白い研究結果があります。
それは人は意思力を使っているうちに「使い果たしてしまう」ということです。
現代社会では様々な選択に駆られるわけですから、意思力など簡単に使い果たしてしまうことは容易に想像できるでしょう。
新しい環境だと特に疲れやすいのは意思力を多くつかってしまうからでしょうか。
研究結果によると意思力が最も高いのは朝でその後、だんだんと衰えていくとされています。
しかし、夜の方が活発になる人もいるため、自分の意思力の増減がどの時間帯に起こるのか分析してみましょう。
自分の意志力の増減に合わせたスケジュールを組んでみると作業が捗るかもしれません。
- 自制心要する小さなことを継続する(やる力の強化)
- 毎日ベッドメイキングをする
- 期限を設けて目標を達成することを繰り返す
- 自分にとって難しいと思う選択を繰り返す(やらない力の強化)
- 汚い言葉を使わない
- 利き手じゃない方を使うようにする
物事を善悪で考えることによる意思力への影響
意思力が消耗して、誘惑に負けたかのように見えても、実はわざと誘惑に負ける場合もあります。
人間の意思決定には、生理学的理由よりも心理学的理由による意志力への影響があるのです。
良い事ばかりしている人ほど、悪に染まりやすい?
心理学では「モラル・ライセンシング」いう現象があります。
人は何か良いことをするといい気分になる。そうなると、自分の衝動を信用しがちになり、悪いことをしたって構わないと思う心理。
このモラル・ライセンシングというものは世間一般にモラルが高いとされている人がスキャンダルを起こす理由として説明できるかもしれません。
警察や政治家が度々、世間を騒がせる不祥事はこういった心理現象があるのでしょうか。
「モラル・ライセンシング」に陥りやすい人とは
意思力で自己コントロールができた場合とできなかった場合を、善と悪の対立と思っていると「モラル・ライセンシング」の格好のえじきとなってしまいます。
良い行動をしたら「よし!」と自分を褒めて、だらけた時に「ダメ」と自分をけなしていると、良いことをした後ほど、悪いことをしても大丈夫と考えてしまうのです。
そして、「モラル・ライセンシング」に陥ると罪悪感を感じません。
それどころか「頑張ったんだから、少しくらいはご褒美があってもいいよね!」と自己を正当化してしまいます。
そのご褒美が有害となる浪費やタバコ、ドカ食いだったりすると、人はダメになっていきます。
「モラル・ライセンシング」を起こさないための考え方
自身の行動に善悪の判断をして道徳的に考えてしまうと、相反する気持ちがでてくるなら、どう考えればいいのでしょうか?
人はコントロールされたくない生き物で、自己決定感を重要視します。
そのため、道徳的に正しいからと考えて意思決定をしていると反発心が湧いてしまいます。
浮気などは道徳的に悪いことですが、浪費、タバコ、ドカ食いなどは道徳的に悪いことでも何でもありません。
全ての物事を善悪ではかろうとすると、自己批判に陥ってしまいます。
「日本人は質素な暮らしが美徳である。」という考えもあまりよくないです。
質素な暮らしをすることで節約できるといったように、目標達成のための手段が役立つかどうかといった観点で考えるようにするといいでしょう。
人の行動は脳の報酬系によって支配される
脳の報酬系とは脳に備わっている原始的なモチベーションのシステムで行動と消費を促進する働きがあります。
魅力的なTVCM、ショップサイト、宝くじなどを見ると脳が刺激されドーパミンという神経伝達物質を放出します。
このドーパミンが脳全体に指令を出して、注意力を集中させ、欲しいものを手に入れる為には何でもしようという気にさせるのです。
なぜドーパミンが分泌されるのか?
ドーパミンに関して以下のような記述があります。
スタンフォード大学の神経科学者ブライアン・クヌットソンは、決定的な実験結果を論文として発表し、「ドーパミンには報酬系を期待させる作用があるが、報酬を得たという実感はもたらさない」ことを明らかにしました。
スタンフォード大学の自分を変える教室p183より引用
ドーパミンに行動を支配される現代人
ストレスによって意思力が低くなる?
あなたはストレスを感じた時や落ち込んだ時にどういった行動をしていますか?
実は落ち込んでいる時やストレスを抱えている人ほど、脳は誘惑に負けやすくなります。
ある経済調査では、お金の心配をしている女性は、不安や憂うつを紛らわせるために買い物をしてしまう結果がでています。
明らかに矛盾した行動ですが、即効の気晴らしを望む脳にとっては実は理にかなっていることなのです。
しかし、そういったストレス解消法は根本的な問題を解決しないということを知っておきましょう。
ストレスを解消する効果的な方法8選
ストレスを解消したい方は次の米国心理学の効果的なストレス解消法をおすすめします。
- エクササイズやスポーツをする
- 礼拝に出席する
- 読書や音楽を楽しむ
- 家族や友人と過ごす
- マッサージを受ける
- 外へ出て散歩する
- 瞑想やヨガを行う
- クリエイティブな趣味の時間を過ごす
ちなみに効果が低い方法は、ギャンブル、タバコ、お酒、やけ食い、ゲーム、インターネット、TVや映画を2時間以上みるなどです。
効果のあるストレス解消法ではドーパミンを放出して期待させるのではなくセロトニンなどの気分を高揚させる物質やオキシトシンなどの気分をよくするホルモンを活性化させています。
あなたにとっての効果的な息抜きの方法は何か色々と試してみることをおすすめします。
ストレスで弱っていると「どうにでもなれ効果」が起きやすい?
ダイエット中に誘惑に勝てずについケーキを一口食べてしまうと、「もういいや、どうせダイエットはできないし全部食べちゃえ」となってしまうことはありませんか?
ストレス解消法に限った話ではありませんが一度、はめを外すと落ち込んでさらにはめを外し悪循環に陥ります。この現象を心理学では「どうにでもなれ効果」と呼びます。
冷静に考えてみると、このような少しの失敗が大きな失敗にすぐに繋がるわけではないことはすぐにわかるでしょう。
少しの失敗で自己批判をすると、モチベーションの低下や自己コントロールの低下につながるのでよくありません。
また自己批判はうつ病の予兆であり、うつ状態では「やる力」や「望む力」が失われてしまいます。
逆に自分に優しくすることで自制心の強化、やる気の向上につながります。
そのため、自分の少しの失敗を許せるように、自分に対しても思いやりの心を持ってあげてください。
「いつわりの希望シンドローム」で変わる詐欺を繰り返す
「現状を変える為に、自分は今から生まれ変わるんだ!」と気炎を上げて決心をしたことはありませんか?
変わる決心をすると希望が胸を膨らませ、気分が晴れやかになります。
「自分が変わったら人生がどんなに楽しくなるだろう」「これからはかっこいい自分になるんだ」と期待するだけで人は満足してしまうのです。
残念ながら大抵は、期待した成果を得ることができないまま終わることが多いです。しかし、しばらくすると、また同じように誓いをたて、諦める…そんなことを繰り返してしまいます。
このような現象を心理学では、「いつわりの希望シンドローム」と呼びます。
なぜ「いつわりの希望シンドローム」が起きるのか?
実際に努力を始めると、期待していたよりも成長の変化が感じられないことが多いです。
そうなると変わろうと決心した時の興奮は消え失せて、失望と不満でいっぱいになります。
そして期待通りに出来なかったことで自信が失われて行き、多くの人は努力をやめて憂うつになっていくのです。
「いつわりの希望シンドローム」にならないために考えること
「いつわりの希望シンドローム」は、期待を膨らますことが目的になってしまっている「気晴らしのための戦略」といえます。
本当に変わりたいと思っているなら「自分を変える戦略」として考える必要があるでしょう。
自分がいつ誘惑に負けてしまい、いつ誓いを破るのかを予想することで決意を持続する確率が上がります。
つまり、楽観的に考えてやる気を出した後は、少し悲観的な考えも取り入れると決意を持続するための方法を考えることが出来ます。
ミラーニューロンにより意志力が伝染する
脳にはミラーニューロンと呼ばれる特殊な細胞があります。
これは他の人達が考えていることや感じていること、行っていることを把握するためのみに存在しています。
このミラーニューロンが存在するおかげで人は他人の様々な行動を理解することができるのです。
ミラーニューロンによる3つの伝染パターン
ミラーニューロンによる社会的な脳は意思力の問題として失敗をマネる3つのパターンがあることが示されています。
①相手の行動やしぐさを無意識にマネる
例)映画の登場人物がタバコを吸っていると無意識にタバコを吸ってしまう
②感情が感染する(機嫌の悪い人がいると周りまで機嫌が悪くなる)
例)感染した嫌な気分を晴らすために意思力が失われてしまう
③誰かが誘惑に負けているのを見ると自分も負けたくなる
例)他人が美味しそうにモリモリと食べている姿を見ると自分も食べたくなる
このような社会的な脳は皆に備わっており、誰もが無意識に誰かのマネをしているものです。
自分が誰のマネをしているかに注意してみると自分の意思力の問題がどこにあるのかわかってくるかもしれません。
ミラーニューロンは成功もマネる
もちろん、この社会的な脳は失敗ばかりをマネするわけではありません。
鉄の意思力を持った人や努力が当たり前と考えている人の意思力に感染することもありえます。
ミラーニューロンによる社会的な脳を活かして自分にとって理想の人の意思力を身につけていきましょう。
まとめ~意志力に大切なこと
この記事では、意思力についての実践的な戦略、知識について解説してきました。
本書を読むと、人間は誰しもが誘惑や依存症に苦しんだり、物事を先延ばしにしたりして悩んでいることがわかります。
- 意志力には大きくやる力、やらない力、望む力の3つに大きく分かれている
- 本能的な自己と理性的な自己という2つの自己がせめぎ合って意志を決定している
- 自己認識によって自己コントロールができるようになる
- 意思力トレーニングをすれば意思力は鍛えることができる
- 物事を善悪で捉えると自己批判につながり意思力が低下する
- ドーパミンによって行動をやめられなくなる
- 自分の失敗を責めると「どうにでもなれ効果」によって悪循環に陥る
- 変わる決心だけだと満足して終わる
- 他人の意思力も自分に影響を与える
意思力について大事なことは失敗や成功から自分はどういった行動をするのかを観察することであり、失敗しても自分を責めず、思いやりを持って接することです。
少し長くなりましたが本書にはまだまだ紹介しきれていないことがあります。
また、本書は10章からなり、1章読むごとに目標を立て、1週間実践していくという10週間の講座を受けるような構成となっていますので読み終わるころには意思力に変化があると思います。
意思力をコントロールして、理想の自分へと近づけていきましょう。